【肩関節】石灰沈着性腱板炎に対する鍼の適応症例

肩関節の疼痛を訴える疾患には、外傷、肩関節周囲炎(いわゆる五十肩、凍結肩)や腱板炎、肩峰下滑液包炎、上腕二頭筋腱炎などいろいろあります。

その中の疾患の中には、明白な外傷歴がなく急性で自発痛が強く、運動制限著明、日常生活動作困難、就眠を妨げる等の主訴を持ち、しばしば患肢を支えて来院する石灰沈着性腱板炎の患者さまをみます。

石灰沈着性腱板炎の大部分は大結節周囲に多く、疼痛も大結節周囲に限局することが多いです。

同部位を診察する際、疼痛のため術者の腕が払いのけられるほどです。

当院では、石灰沈着性腱板炎を訴える患者さまに対して鍼通電破潰法を行っています。

症例

前の晩、突然の疼痛で一睡も眠れずと訴えて来院する。

疼痛の為ROMゼロ、右大結節部に圧痛著明。

急性石灰沈着性腱板炎の疑いにて提携病院にて、x-p(レントゲン)肩峰下滑液庖部に粘液状の石灰像を認める。

鍼破潰法による鍼通電刺激療法で石灰を破潰(あえて破壊と表現せずに破潰とした)する。

3日後で石灰は消失している。

疼痛も劇的に軽減。関節可動域良好となる。

X線像1
図1 X線像1
X線像2
図2 X線像2
鍼破潰法による鍼通電刺激療法
図3 鍼破潰法による鍼通電刺激療法
機能訓練(プーリー体操)
図4 機能訓練(プーリー体操)

鍼通電破潰法の解説

当院独自の治療法である鍼通電破潰法を紹介します。

  • 患部を触診、超音波画像装置にて石灰沈着部(圧痛著明)を確認。
  • 圧痛部に角度計を使用し、右図のように60°間隔に接線方向から石灰沈着部に向けて鍼を刺入。
  • 鍼麻酔器(パルス)で通電刺激を与える。
  • この方法により鍼による石灰沈着の破潰ができ、通電刺激による除痛や、筋運動が可能となることにより疼痛も軽減する。
  • 鍼を抜去し、患部周囲を愛護的にマッサージし、患肢を他動的かつ愛護的に運動する。
  • 更に疼痛が軽減したらプーリー運動を約5分間行う。
  • 就眠が妨げられたほどの激痛が著しく軽減し、患者さんの安堵する様子が術者に伝わってくる。また、超音波画像にて石灰沈着の消失を確認。経過観察が可能。
鍼通電破潰法
図5 鍼通電破潰法

鍼通電破潰法の利点

  • 麻酔剤を使わず、外来で簡単かつ短時間に施術できる。麻酔をかけないので患者さんに侵襲を与えない。かつ入院を必要としない。
  • 手術の場合と違って痕跡を残さず、運動障害を残さない。
  • 鍼が極めて細い(注射針と比較して)為、皮神経や軟部組織を傷つけないので、知覚異常を訴える障害が少ない
  • 筋の運動点等にも鍼通電刺激を与えるのでリン酸カルシウムの吸収が早く、早期の運動療法及び理学療法も兼ねるため、患者さんの疼痛も早期に軽減する。
  • 当院の経験した症例のうち、ほとんどの症例に対して追跡調査をしており、再発の報告は今のところない。本法での予後は、極めて良好と考える。

関連記事